メニュー
目次
デジタルフィルタとは
デジタル信号の周波数成分とは
アナログ波形からその周波数スペクトルを得るためには,一般にフーリェ変換が用いられる.デジタル音声やデジタル画像などデジタル信号から周波数スペクトルを得るには,デジタルデータに効率的に適用するアルゴリズムとしてFFT(Fast Fourier Transform: 高速フーリェ変換)が考案されており,一般に普及している.
波形信号をフーリェ変換すると,次の2つのスペクトルを得られる.
- 振幅スペクトル
- 位相スペクトル
この両方を合わせて周波数特性(周波数スペクトル)と呼ぶ.このうち振幅スペクトルを二乗したもの(「パワー」)を,パワースペクトル(power spectrum),あるいはフーリェパワースペクトルと呼ぶ.ただし,俗に周波数特性とよばれる場合,位相スペクトルを無視してパワースペクトル(振幅スペクトル)だけを指すことが多い.
あえて感覚的な説明を行うと,振幅スペクトル(パワースペクトル)は,「ある周波数の音がどのくらい含まれているのか」の一覧を表しており,位相スペクトルは,「ある周波数の音の波形の形がどうなっているのかに関わる値」の一覧を表していると理解できる.単純な操作としては,ある周波数の音の音色を変えずに弱めたり増幅したりすることをよく行うため,振幅スペクトルの方だけ変更する手法がよく利用される.
フーリェ変換には,逆変換が定義されており,振幅スペクトルデータと位相スペクトルのふたつが揃えば元の波形を復元することもできる.一度スペクトルに変換してから,周波数成分を操作した後逆変換して音声波形に戻すことにより,周波数成分の上の観点で音を処理することができる.
デジタルフィルタとは
フィルタ(filter)とは,対象物から必要な成分だけを取り出す装置全般を指し,音響工学などの分野では,必要な周波数成分だけを取り出す装置やソフトウェア,あるいはさらに一般的に「必要なものを取り出す操作」のことを指す.特にデジタル信号を対象としたフィルタをデジタルフィルタと呼ぶ.
代表的なフィルタとしては次のものがある.
- LPF(Low pass filter): 低域通過フィルタ
- HPF(High pass filter): 高域通過フィルタ
- BPF(Band pass filter): 帯域通過フィルタ
- BEF,BRF(Band elimination filter, Band reject fitler): 帯域除去フィルタ
それぞれ,カットオフ(cut-off)周波数を指定して,その周波数以上(以下)の成分だけを通過(pass)させたり,除去(elimination,reject)することで,目的に応じた周波数成分だけを残す操作を表している.
実用的な音声処理の例
音響機器や,DTM(Desktop Music)の分野では,デジタルフィルタなどを活用して次のような機器(ソフトウェア)が使用され,一般にエフェクタと呼ばれる.国内のDTMソフトとしては(株)インターネットの「Sound It!」などが有名で,初心者向けDTM講座なども提供している.
イコライザ
デジタルフィルタをそのまま利用して,必要な周波数の音だけを増幅したり除去するための機器.特に周波数帯域別にレバーが用意され,レバーの設定により視覚的に周波数フィルタの様子がわかるものをグラフィカルイコライザと呼ぶ.
ノイズリダクション
雑音(ノイズ)を低減する方法には,いくつか考えらる.そもそも雑音の発生源を考慮する必要があるが,ホワイトノイズ(白色雑音)は,周波数帯全域に渡って混入しているノイズのことをいう.低音などの部分では他の音によりマスクされ,あまり気にならないが,高音部で人間の聴覚上影響が大きいとされる(「シャー」「サー」というノイズ).そのため,高音部をLPFにより,低域のみ通過させ高音部を遮断することでこうしたノイズを低減できるが,高音部をカットするために,どうしても音に影響をおよぼし,あまり遮断しすぎると音を丸める結果となる.
また,家庭用電源から混入するハムノイズ(50Hz,60Hzh)を除去するだけなら,まさしくその周波数だけをカットすることで低減できる