特に最近の潮流であるオブジェクト指向パラダイムに従ったシステム開発では,プログラミングに関する知識と経験のみならず,オブジェクト指向の考え方と,ソフトウェア分析・設計に関する十分な知識を併せもったソフトウェア技術者が不可欠であるといってよい.本書は,このような背景のもとに,ソフトウェア工学の特に分析・設計に関連する技術を取り上げ,その考え方,および開発現場への適用方法を中心に述べたものである. ソフトウェア開発現場の技術者からは,ソフトウェア工学で役に立つものは少ないとの批判の声も少なくない.筆者自身,現場のソフトウェア開発責任者であったときには,このような声に同意した経験をもつ.しかし,分析・設計の経験を重ねるに連れ,実はソフトウェア工学の目的,思想,および基本的な考え方を十分理解せずに,実務への適用を試みた結果ではないかとの考えに到着した. このような経験や反省から,本書ではソフトウェア設計に必要な基本的な概念とその考え方,適用に当たっての注意等をできるだけ具体的に述べるように心掛けた. 本書は,ソフトウェア工学の講義で用いたものに加筆したものであるが,真の読者としては企業でソフトウェア開発を手掛けるシステムエンジニアの初級者を想定している.ソフトウェア工学が,ソフトウェア開発現場の技術者の基盤技術として,役立つ学問であることを多少でも理解していただき,積極的に応用していただければ幸いである. |