教科書 "ソフトウェア設計の基礎" 

大木 幹雄,日本理工出版会 1999年 (230頁,\2,500)

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企業における基幹系システムや情報系システムは現在大きな転機をむかえている.従来からの汎用機やオフコンを中心とした基幹系システムとパソコン,ワークステーションによる情報系システムの融合化が図られた時代から,ネットワーク結合された多数の分散システムを統合化し,柔軟で拡張性の高いシステムへと本格的に移行しはじめている.それに伴い,技術の進展が激しく,かつ従来のソフトウェア技術者の不得意とする技術をもった技術者を補充する意味もあって,ネットワーク技術者やデータベース技術者に対する需要が高まっている.しかし,このような技術者のみでもちろん統合化された分散システムへの移行が行える訳ではない.新たなコンセプトで新統合システムを捉えなおし,システム開発の分析・設計をするソフトウェア技術者,あるいはシステムエンジニアの存在は不可欠である.

特に最近の潮流であるオブジェクト指向パラダイムに従ったシステム開発では,プログラミングに関する知識と経験のみならず,オブジェクト指向の考え方と,ソフトウェア分析・設計に関する十分な知識を併せもったソフトウェア技術者が不可欠であるといってよい.本書は,このような背景のもとに,ソフトウェア工学の特に分析・設計に関連する技術を取り上げ,その考え方,および開発現場への適用方法を中心に述べたものである.

ソフトウェア開発現場の技術者からは,ソフトウェア工学で役に立つものは少ないとの批判の声も少なくない.筆者自身,現場のソフトウェア開発責任者であったときには,このような声に同意した経験をもつ.しかし,分析・設計の経験を重ねるに連れ,実はソフトウェア工学の目的,思想,および基本的な考え方を十分理解せずに,実務への適用を試みた結果ではないかとの考えに到着した.

このような経験や反省から,本書ではソフトウェア設計に必要な基本的な概念とその考え方,適用に当たっての注意等をできるだけ具体的に述べるように心掛けた.

本書は,ソフトウェア工学の講義で用いたものに加筆したものであるが,真の読者としては企業でソフトウェア開発を手掛けるシステムエンジニアの初級者を想定している.ソフトウェア工学が,ソフトウェア開発現場の技術者の基盤技術として,役立つ学問であることを多少でも理解していただき,積極的に応用していただければ幸いである.


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